司法書士法人あさひのブログ

不動産登記~休眠担保による抵当権抹消~2/6

  • 2022.1.31
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

その日の夕方

 

「お兄さん、園田さんの件今回難しそうだね。」

「そうだね。でも、絶対抹消してあげないとでしょ?。助けてあげたいでしょ?」

「うん。」

「整理しようか。まず、今回の案件、相続登記の方は、スムーズに遺産分割協議が

まとまると思うんだ。問題は、抵当権抹消登記だよね。抵当権の抹消に必要な書類は?」

  • 義務者が発行する解除証書や弁済証書
  • 義務者の抵当権設定の際の登記済証
  • 権利者と義務者からの抵当権抹消に関する登記委任状

「正解。義務者が銀行で、権利者は園田さん側だけど、今回の書類に問題点ある?」

「今回、園田さんが持ってきてくれた書類の中に①の書類がなかった。」

「そうだね。だけどさ、園田さんが持参した銀行からの送付状に解除証書の文言ないよね。

もともと、発行されてなかったかもしれないよ。」

「30年以上前は、抵当権抹消するのに、解除証書は必要なかったってこと?」

「調べる価値あるよね。当時必要なかったら、スムーズに抹消できるかもしれない。

ただし、資料がないかもしれないよ。そうしたら、それに固執せず、次の方法を

考えた方がお客様のためだよね。」

「他には何かある?」

「②の登記済証や③の銀行からの委任状はある。ただ、その銀行はもうないよね。」

「そう。まず、一番先に調べるのは、その銀行が今どうなっているかなんだ。

その銀行が分かれば、おそらく解除証書を発行してくれるだろうから。

和花、まず、銀行の変遷調べて報告して。1週間以内ね。」

「はーい。ちなみにお兄さん。この銀行からの委任状は使えるのかな?」

「どう思う?」

「うーん。使えると思う。この当時の銀行は、もうないかもしれないけど、登記の代理権不消滅

の規定を利用すればいいと思うから。」

「うん。確かに、不動産登記法第17条では、『法人が合併して消滅したり、代表者が退任した

り、死亡したりして代表権限が消滅したとしても、代表権限があるときにその代表者から委任を

受けた代理人の権限は消滅しない。』とされているよね。つまり、その代表者に権限がある期間

中に作成された書類であれば、その書類を使用して登記を申請することができるということだ

ね。でも、この銀行、誰に登記の委任をしている?

「えーと。あっ。豊さんの名前が書かれている。」

「そう。この銀行は、抵当権抹消登記申請を豊さんに委任しているわけ。

つまり、豊さんが代理人。豊さんがご存命であれば、当時の銀行の代表者が発行したこの書類は

有効な委任状になる。だけど、代理人である豊さん自身が亡くなっている。

ということは、原則通り民法の委任終了事由になるよね。民法の委任終了事由覚えている?」

「えっと、委任者の死亡・破産。受任者の死亡・破産・後見開始。ここでは、豊さんの死亡で

委任が終了している。委任は、一身専属権だから相続の対象にはならない。」

「そう。その通り。民法653条だね。」

「そっか。委任状も使えないのか。。。」

「そういうことになるよね。調べることが沢山あって大変だね。相続登記の方も忘れず

よろしくね。」

「はい」

私にこの案件できるだろうか。不安になってきた。でも、やらなきゃ。

園田さんの顔が浮かぶ。

さぁ、1週間のうちに銀行調べなきゃ。

 

次の日、私は一通り他の仕事を終えて、ようやく夕方園田さんの案件に取り組むことができた。

まず、抵当権者である「あすか」銀行をネットで検索してみる。登辞林によると、

平成1年に商号が変更され「日の出銀行」になり、日の出銀行は、平成8年に解散。

そして平成11年に清算結了となっていた。本店所在地も載っていたので、

とりあえず、ネット謄本を取得してみた。謄本には、上記の内容と清算人の氏名・住所が

登記されていた。

会社は、解散しても、清算の範囲内で権利能力を有するため、清算が結了するまでは、

法人格を失わない。解散の登記がされると清算人が選任されその清算人の住所と氏名が

登記される。清算人とは、解散後の清算手続きをする者のことだ。債務を弁済したり、

抵当権抹消登記手続きも清算人の仕事の一つだ。今回、園田さんの抵当権抹消登記は、

本来ならあすか(日の出)銀行と園田さんでするものだ。しかし、あすか(日の出)銀行は、

すでに解散している。抵当権抹消という手続きが済んでいないということは、

清算がまだ終わっていないという状態だ。それなのに、清算結了登記が入ってしまっている。

本来であれば、日の出銀行の清算結了登記を抹消し、日の出銀行の法人格を復活させ、

日の出銀行の清算人と園田さんで抵当権の抹消をすべきだ。しかし、登記先例では、

このような状況に際して、清算結了登記を抹消せず、便宜、元清算人と共同で抵当権抹消申請を

することを認めている。今回、清算人と連絡が取れれば、抵当権抹消することが可能になる。

                                 つづく