司法書士法人あさひのブログ

司法書士日誌*はじめての決済*(不動産登記)4/4

  • 2022.1.11
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

祈るような気持ちだ。私は兄からの「始めてください。」のセリフをただただ待っている。

5分、10分、15分。。ようやく兄から電話がかかってきた。

「確認とれた。住居表示で所在地の住所の記載が変更されているだけ。大丈夫。始めてください。」

ほっとして泣きそうになるのをこらえながら、「確認がとれました。それでははじめます。」と私は、声をかけた。みんながほっとした様子だ。

 

「改めまして、今回の登記の手続きを担当させていただきます司法書士の神咲と申します。よろしくお願いします。手続きの流れを説明します。」

「まず、買主の井上さん、売主の小滝さんのご本人様の確認、物件を売買することへの意思の確認。それから登記に必要な書類を預かります。またご署名や押印をしていただきます書類の読み合わせをします。その後、現金の支払いをし、領収書の発行、解散」という手順です。だいたい30分ほどとお考え下さい。」

 

「まず、売主の井上美香さん。免許証をお出しください。ご本人の確認をします」

井上さんは、30代でご夫婦できていた。免許証をうけとり、住所・氏名・生年月日を言ってもらう。同じように、売主の小滝さんからも免許証を確認させてもらい、住所・氏名・生年月日・干支を言ってもらった。

確かに本人だという確認がとれると、次に登記に必要な書類の説明をする。

売主さんからは、印鑑証明書、登記済証を預かったので、預かり証を交付する。印鑑証明書は、法務局へ提出すると返却してくれないので、その旨の説明もする。

買主さんからは、住民票を預かり、同じく預かり証を交付する。

「次に、登記申請手続きに必要な書類に署名・押印お願いします。

まず、委任状です。委任状は、今回の登記申請手続きは、自分たちに代わって司法書士の神咲に委任しますよというための書類です。」

最後に登記原因証明書の読み合わせをする。

「売買対象物件お間違いないですか?」

「売買するということでよろしいですか」?

「はい」とのお二人の返事。  (よかった。人・モノ・意思の確認はできた)

「それでは、署名と押印お願いします。」 無事、お二人からの署名・押印をもらう。

 

「調いました。現金の支払いをおねがいします」

現金の支払いが終わり、領収書のやりとりが終わると大きな声で「おめでとうございます!」と仲介さん

みんな笑顔で一同拍手だ。よかった。無事終わった。

 

でも、のんびりもしていられない。司法書士は、ここからが大忙しなのだ。

大急ぎで事務所に戻り、登記の申請書を作成し登記申請するためだ。スタッフの一人は念のため、登記済証の不動産の表示が閉鎖されている登記簿謄本と一致しているか確認のため法務局へ行っているとのことだった。ほどなくして「一致しています。写メ送ります」との一報を受け、無事申請。

 

終わったー!!!  すでに16時になろうとしていた。

 

「お昼食べておいで」と兄。

 

決済当日の司法書士は、ランチは申請するまで食べない。二重譲渡(売主さんが同じものを他の第三者にも売ってしまうこと)され先に登記を申請されては大変なことになるから一秒でも早く申請することに全力をかける。

 

スタッフが帰ったあと、兄の分と自分の珈琲を入れながら

「今日の決済ね、お兄さんの始めてください。というセリフを待っていた。」

「知ってるよ」

「お兄さんが、今日立ち合ってたらどうしてた?」

「同じだよ。和花は、私に電話してきた。私は、市役所か法務局か迷って、すぐに回答もらえそうな市役所に電話した。同じように、その場に私がいたら、席を外し、法務局か、市役所かどちらか悩んで電話して確認をとった」兄は続けて

「決済場所に集まっている売主さん、買主さん、仲介さん、みんな、今日の売買が成立することを望んで遠くから足を運んで来ている。みんなが、司法書士の「はじめてください。」の一言を待っている。感じたでしょ?」

「うん。」

「逆に言えば、その一言がない限り所有権の移転手続きは、できない。みんなの期待を背負いながら、それでも、本当にこの物件は、売主のものか、人、モノ、意思を確認し、大丈夫か、大丈夫じゃないか。最後は、自己判断なんだよ。もし、そこでダメだと自分で判断したのなら、取引を中止または、延期させることも必要なんだ。それは、とても勇気がいることだよね。みんなが気を悪くする。怒られるかもしれない。でも、人の大切な権利がとくに高額な不動産が移転するのだから、間違いは許されないんだ。みんなを何時間待たせてでも確認して確認して、慎重にしすぎてダメなことはないんだよ。」

 

その日の帰り

司法書士って大変だー。でも、今日の仲介さん、売主さん買主さんの和やかな雰囲気を思い出し、温かい気持ちになった。決済も悪くないかもなぁ。今日は、お兄さんに頼ったけど、次は、自分の力でその場で解決できるようにならないとだ。

                                                                                         完