前回は、下記⑥の種類株式の説明をしました。
今回は、⑦の株式の全部取得条項付株式について話をしたいと思います。
【種類株式の内容】
①剰余金の配当規定
②残余財産の分配規定
③株主総会の議決権制限規定
④譲渡制限株式に関する規定
⑤取得請求権付株式に関する規定
⑥取得条項付株式に関する規定
⑦全部取得条項付株式に関する規定
⑧拒否権付株式に関する規定 ~黄金株~
⑨役員選任権規定
≪全部取得条項付株式とは≫
全部取得条項付株式とは、株主総会の決議(特別決議)で会社が当該全部取得条項付株式の全てを取得できる株式
取得条項付株式との大きな違い(一例)
- 既発行の株式を取得条項付株式とする場合には、対象株主全員の同意が必要であるが、全部取得条項付株式とする場合には、株主総会の特別決議(場合によっては、種類株主総会の特別決議も必要)で可決されれば、対象株主全員の同意までは必要ない。
- 取得条項付株式は、その発行する全ての株式を取得条項株式の、単一株式発行会社となることができるが、全部取得条項付株式は、定款で2以上の内容の異なる種類の株式を発行する旨を定める必要があり、種類株式発行会社でないとダメ。(ただし、現実に2以上の株式を発行することまでは求められない)
会社が株式を取得する際、株式の取得の対価として交付する財産に制限はなく、財源の規制があることは、前記取得条項付株式と同様。
【活用例】
- 事業承継対策のため少数株主の排除、行方不明株主の整理を図りたいとき。
- オーナーの支配権を強化するために、敵対する少数株主から議決権を奪いたいとき。
→ 会社が保有する普通株式を全部取得条項付株式に変更し、会社がその全部取得条項付株式を取得することで、少数株主の議決権を排除したり、行方不明株主の整理ができる。
【手続き例】(普通株式のみ発行する単一株式会社の場合)
- A種類株式を定める定款変更 → 普通株式とA種類株式の2種類の種類株式発行会社となる。
- 既発行の普通株式全部を全部取得条項付種類株式(B種類株式)に変更する定款変更。
- B種類株式を取得するための株主総会特別決議 → B種類株式は、会社が取得し自己株式となる。
⇒ 株主には、対価としてA種類株式(議決権なし又は端数株)を取得させる。 - 募集株式の発行決議によりB種類株式をオーナー株主又は後継者に割り当てる。
- B種類株式(全部取得条項付株式)を普通株式に変更
⇒ 株主(又は議決権)がオーナー株主又は後継者のみとなる。
※この手続きをするには、オーナー株主は、発行済株式の3分の2以上の株式を保有している必要がある。また、「あの株主が嫌いだから廃除しよう」という理由でこの方法を利用するとトラブルの原因になるので注意が必要